流行り廃りの激しいアパレル業界では、常に売れ残ってしまう大量の商品と向き合う必要があります。そんななかで、ファッションの発信地であるフランスで「衣服廃棄禁止令」の運用が始まりました。今後、日本でも同様の流れが起こる可能性が考えられます。
今回は、フランスで始まった衣服廃棄禁止令の概要と併せて、日本のアパレル業界に及ぼす影響について見ていきましょう。
2022年1月からフランスで衣服の廃棄を禁止される
衣服の在庫問題はアパレル企業にとって積年の課題です。しかし、2022年1月からファッションの発信地であるフランスで、売れ残った新品の衣類を企業が償却や埋め立てによって廃棄することを禁止する法律の運用が始まりました。
食品に関する廃棄を禁止する法律はいくつか例が見られますが、食品以外の在庫廃棄の規制に踏み切った法律は世界初です。フランスではラグジュアリーブランドなどによる売れ残り品の廃棄が社会問題化していることもあり、今回の法律の運用が始まりました。
世界的に同様の禁止令が一般化するかどうかはわかりませんが、ファッション分野で影響のあるフランスが規制を開始したことで多くの国への影響が懸念されます。
衣服に関するCO2排出量は自家用車に匹敵する
実は日本でもファッション産業による環境負荷は以前から指摘されていました。
環境省の調査によれば、国内で供給される衣服によるCO2排出量は約9500万トンと推計されています。これは同年度に国内の自家用乗用車から排出された9458万トンに匹敵する量です。
衣服によるCO2排出の多くは原材料調達や染色などのものづくりの段階が占めていますが、近年では少子化などの影響で市場規模は縮小傾向にあり、家庭でも新品のまま廃棄される衣類が大量発生しています。これらを焼却処分する過程でも多くのCO2が発生するため、現在の供給過多状態からの脱却が急務とされています。
日本のアパレル業界にも影響を及ぼす可能性
日本のアダストリアは、2021年2月期から在庫の焼却処分を行なわないことを決定しました。1年以上滞留している在庫はアウトレットや自社ECで再販し、それでも売れ残った場合は新興国での再販、衣服を繊維に戻すリサイクルを行っています。
以前は廃棄物を焼却する際に生じた熱をエネルギーとして再利用する「サーマルリサイクル」も活用していましたが、2021年2月期からは実施していません。その理由として、サーマルリサイクルにすべての顧客の納得を得ることが難しい点が挙げられています。
しかし、焼却以外の方法によるリサイクルではそれなりのコスト負担が発生します。今後、売上規模の大きい企業ほど「社会的責任」としてその負担を飲み込む必要があり、売上に大きく影響することになるでしょう。