「オンラインビジネスは今後十数年から20年をかけて衰退する」中国大手通販事業者アリババグループ創業者のジャック・マー氏は2016年に、このような大胆発言を宣言しています。ジャック氏によると、実際に商品を手に取ることができないオンラインビジネスは「顧客体験」部分に限界があり、中長期的には新しいビジネスモデルが取って代わるのは必然との認識です。
では、オンラインビジネスの代わりを務めることになるビジネスモデルとは何でしょう。当のジャック氏はこれを、オンラインとオフラインの融合による「ニューリテール」と説明しています。
現状、既存のビジネスモデルは大きく分けて、インターネット通販などによるオンラインと、店舗型販売によるオフラインに大別されます。最近では両者を使い分ける企業も増えていますが、ジャック氏はこうした単純な併用よりも、ITの強みであるテクノロジーを店舗運営に活かすことで、現在の覇者であるオンライン通販すら凌駕することができるとしています。
ニューリテール、それはオンラインとオフラインの融合
さて、ここからは「ニューリテール」の具体的な事例として、アリババグループが展開する新型スーパーマーケット「盒馬鮮生」の例を見てみましょう。
「盒馬鮮生」は実店舗を構えると同時にEC注文に対応したスーパーですが、単純に注文に応じて食材を提供するのではなく、実店舗においては各種IoTセンサーやカメラで顧客の表情や行動を観察したり、ECにおいてはグループサービスの「アリペイ」や専用アプリなどを通じて、顧客の興味などの情報収集に注力しています。
このような取り組みで同社が求めているのは、顧客の企業やサービスに対する顧客の印象である「カスタマーエクスペリエンス(CX)」と呼ばれるデータです。
「盒馬鮮生」においては得られたCXを分析し、例えば店舗において「CXの購買傾向をデータ化することで販売数や在庫回転率を向上」、ECにおいて「顧客関心をAIが分析し、販売商品と在庫の配置を自動決定」など顧客へのサービスとして落とし込んでいます。
人工知能を駆使してマーケティングを取集・分析・整理することで、まさしく「入店・閲覧したが最後、購入せずにはいられない店舗」を実現している形です。
導入企業が続々登場!日本国内にも動きアリ
さて、2020年現在、ジャック氏が提唱する「ニューリテール」は、中国の多くの企業がさまざまな形で導入を進めている状況です。
たとえば、家電大手の「小米(シャオミ)」は、実店舗「小米の家(Mi Store)」でCX情報を収集し各種サービスに反映することで「販売して終わり」の企業から、「購入後にファンになってもらえる企業」へと変貌を遂げました。
また、国内においても羽田空港ビルディングとNTTアドがIoT機器を駆使した顧客データ分析に強みを持つモデルブランド「HARAJU Cross JMC_est」をオープンするなど、「オンライン×オフライン」の動きは着々と進んでいます。
いずれも極めてスマートかつ効率的に、購買意欲を刺激する取り組みに仕上がっています。ジャック氏は「ニューリテール」が既存オンラインサービスを凌駕する日は、思いのほか近いのかもしれません。
〈参照〉ニューリテールを支えるのはCX。代表格アリババの「盒馬鮮生」、家電メーカー「小米科技」の共通点/ネットショップ担当者フォーラム