2019年10月の消費税増税に伴い、政府が推奨するキャッシュレス決済化。その流れを受けて、完全キャッシュレス化する店舗も展開され始めています。現金が使えない完全キャッシュレス店舗とすることにより、売上にはどのように影響するのでしょうか。今回は、「プロント」と「上島珈琲店」の2つの事例を紹介します。
「プロント」の失敗事例
東京都内を中心に全国展開しているカフェチェーン「プロント」では、2018年11月から完全キャッシュレス店舗を展開しています。同社の担当者によれば「商品やサービスだけでなく、キャッシュレスという決済手段も店舗を選ぶ際の基準としてもらう」ことを目的に展開された店舗です。
消費税増税の1年ほど前から既に展開されており、キャッシュレス化によって人件費削減などの効果が得られました。現金を扱わないため、閉店後のレジ締め対応が不要となり、店舗スタッフも現金を扱わなくてよいという心理負担が軽減されるメリットも得られたそうです。
しかし、人件費で削減できた分は、カード会社などに支払う決済手数料で相殺されました。日本は海外と比べてカード会社などの決済手数料が高い傾向にあり、キャッシュレス決済のデメリット面が明らかになった形です。
プロントの完全キャッシュレス店舗では、人件費の削減はできたものの売上の増加には直結しませんでした。
「上島珈琲店」の成功事例
上島珈琲店は、兵庫県に本社を置くユーシーシー上島珈琲株式会社が展開するカフェチェーンです。こちらも全国に広く展開されていますが、完全キャッシュレス店舗はプロントと同様に東京都内に展開しています。
上島珈琲店では、「既存顧客の取り込み」に力を入れたと担当者は語っています。もともと同店では、現金決済とキャッシュレス決済を取り扱っており、決済比率は半々でした。そのため、完全キャッシュレス決済へと踏み切ったわけですが、移行に伴いキャンペーンを行うなどして1ヶ月ほどの移行期間を設けています。
顧客への理解を求めるとともに、既存顧客の取り込みが行われたことで、売上の増加に繋がりました。具体的には、キャッシュレス決済を行う顧客は手持ちの現金を気にしなくて良いため、全体的に客単価が高くなったそうです。
リピートユーザーを増やし、上島珈琲店のファンを徹底的に囲んだことが成功の秘訣であると語られています。
キャッシュレス決済化だけでなく顧客獲得の販売戦略が必要
2つの事例を比べると、キャッシュレス決済化だけでなく顧客獲得の販売戦略が必要であることがわかります。店舗を訪れる客層をチェックし、キャッシュレス決済化による影響を把握できていたかどうかが明暗を分けるポイントになったといえるでしょう。
プロントの完全キャッシュレス決済店舗は新店であり、はじめから現金決済ができませんでしたが、客層とのキャッシュレス化のミスマッチが起きてしまいました。日本人のなかにはまだ「現金主義」の人も多く、完全キャッシュレス決済店舗には訪れないという人も少なくありません。
キャッシュレス決済は人件費の削減など、店舗側のメリットもありますが、客層に注目して売上への影響を考慮しなければならないことがわかる事例ではないでしょうか。