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中小のDX促進へ意識改革【対談】 フォーバル代表取締役会長 大久保秀夫氏 ×STANDARD代表取締役 安田光希氏

広報部

2020.06.09

人口減少やグローバル化、デジタル化という大波が日本の経済社会に変革を迫っている。日本経済を支える中小企業の多くが人手不足などの課題を抱えており、効率化やそのためのデジタル化が強く求められている。日本企業、特に、その根幹を狙う中小企業のデジタル化、経営改革をどのように進めていくべきか。STANDARD代表取締役の安田光希氏が、フォーバル代表取締役会長の大久保秀夫氏に展望や課題を聞いた。

”使う人”だけ育成を

—— 中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)がなかなか進みません。大久保会長は数多くの会社の経営を見てこられていますし、ビッグデータ活用の重要性も訴えられています。DXが進まない要因をどのように見られますか。

「要因の一つには、経営者の高齢化が挙げられるでしょう。日本の企業数の99.7%を占める中小企業の社長の平均年齢は、いまや70歳近い。若い年齢層の経営者はしっかりと勉強をしているのですが、大半の経営者はデジタル技術に慣れ親しんでいない年代の人たちなのです。」さらに、デジタル技術に詳しい人材を採用しようとしても、彼らは中小企業や商工業者に就職しようとは考えません。たとえ、経営者がDXを進めたいと考えていても、必要な人材が採れないというのが現状です。そのためにDXが遅れ、結果として大企業との生産性格差がどんどん広がっています」

—— 私は、中小企業がデジタル技術を難しく捉えすぎていることも要因だと考えています。デジタル技術を扱う人材は、大きく”作る人”と”使う人”の2種類に分けられますが、実は中小企業に必要なのは”使う人”だけである場合も多い。”作る人”というのは、AI開月を例にあげれば、より高い精度が出るようなアルゴリズムを新たに開発したり、既存のアルゴリズムを応用してモデルを作ったりする人材を指しています。GAFAなどに高給で引き抜かれるのは、このような人材です。一方、”使う人”というのは、ユーザー各社でデータを整備したり、現場の課題を吸い上げて企画を立案したりする人材を指しています。確かに、”作る人”はなかなか中小企業には入ってこないでしょう。ただ、いまはあれらのアウトプットを代替できるようなツール類が多く提供されています。これらをうまく活用すれば、中小企業は”使う人”だけを育成することでDXが実現できます。彼らは、ある程度のデジタルリテラシーと、新しいものを試してみようというマインドさえあれば自然に育っていきます。このようなリテラシーやマインドを醸成できさえすれば、さほど難しいことではありません。

「昔と違って、オープンソースソフトウェアやクラウドサービスがありますから、確かに自社で一から開発する必要はありませんね。中小企業の経営者にデジタル技術はもっと身近なものだということをもっと認識してもらえるといいですね」

—— そうですね。これらの技術は確実に社会のインフラになっていきます。「最近AIがはやっているから、ウチもこのツールを入れてみよう」というような一過性の話ではありません。いわば、ビジネスをもっと強くするため、顧客により大きな価値を提供するための土台となるものです。これは何としても社内の人材で扱えなければなりません

「もう一つ大事なのは、今後、日本の人口が大きく減っていくことですね。この環境下では、デジタル技術を活用しなければ企業経営が成り立たなくなっていきます。特に、IoT(モノのインターネット)を人に代えて活用すれば、業務の生産性はどんどん上げられる。日本はソフトウエアの分野では出遅れてしまったけれど、ハードウエアの強みを生かせるIoTの領域なら日本企業が世界を制することも十分に可能だと思います。人手不足が深刻な中小企業にとって、IoTは必要不可欠です。さらに、そこからビッグデータ化とか、AIかが進みますから、システムの供給や、人材育成といった面で後押しするわれわれのような企業の役割が重要になってくると思います」

企業は社会の公器

—— 今、世界を見渡しても、先端のデジタル技術を駆使したビジネスを行っているのはわれわれ含めて若い企業が多い印象です。大久保会長も25歳で若くして企業されましたが、われわれのような若い世代の経営者へアドバイスをいただけますか

「日本社会を活性化するためには、もっともっと企業の新陳代謝を激しくして、イノベーションを起こしてもらう必要があります。なので、デジタル関係を中心に若い経営者がどんどん出てきてほしいと思います。ただ、企業には社会的の責任があります。国を支えるための納税と経済を支えるための雇用という2つの義務のことです。企業は社会の公器ですから、いくら若くても経営者である以上は公人なのです。イノベーションを起こすことにたけているだけでなく、起業した以上は、その企業を存続させることにも意識を傾注してほしいですね」

—— 企業を存続させる秘訣は何でしょうか

「第一に、社員とその家族、顧客、株主、取引先といったステークホルダー全員を幸せにすることです。私は”社中分配”と言っていますが、それをしないと経営は長続きしません。誤解を恐れずに言うと、企業にとって利益は手段であって、目的ではないのです。良い技術・サービスで社会に貢献しよう。社員を幸せにしようということが目的であり、それを達成するためには利益を出す必要があるということです。株主を最重要視すると株主資本主義というのも、長期投資を阻害する面もあるし、会社ちうものの本質を間違えていると思う。私は”交易資本主義”と呼んでいますが、企業は公益的な考えを持ったうえで利潤を求めるべきです」

——よく分かります。STANDARDを創業したのも、どうすれば目の前にいる人により価値を与えられるかと考え続けたのがきっかけです。最初は後輩の学生たちを集めて、AI技術を教えていたのですが、もっと価値を与えるためには、対面で教えるよりも動画を作ってオンラインで教えるべきだと考え、デジタル化しました。そのコンテンツをソフトバンクさんに評価されたことから、学生だけでなく企業に対しても価値を与えられるのだと気づき、企業向けにシフトしていきました。最初はエンジニア向けの講座だけを提供していたのですが、先ほどの”使う人”を育てることも必要だということで、そのためのコンテンツも提供。さらには企画、開発といった部署の人に対しても専用のコンテンツを提供するようになりました

「素晴らしい仕事だと思います。フォーバルグループで、IT教育サービス事業や、ITエンジニアの育成・派遣事業を行っているアイテックが3月にSTANDARDと業務提携。御社のAI関連技術教育コンテンツを提供させていただくことになりました。御社の考え方に大いに賛同し、その考え方を少しでも普及できるようにと鋭意、動いているところです。安田さんのような若い経営者が成功することで、俺も俺もとイノベーションを起こそうとする人が後に続くことでしょう。ただし、IPO(株式公開)をしたいとか一旗揚げたいという気持ちだけではだめです。きちんと経営の本質を理解したうえでないと、単なる技術者集団で終わってしまいます」

バランスが大事

—— 大久保会長はいつ、どこでそうした経営哲学を学ばれたのですか

「私の先生は稲盛さん(稲盛和夫氏=京セラ創業者)と盛田さん(盛田昭夫氏=ソニー創業者)です。30代の初めに、稲盛さんの『盛和塾』と 盛 森さんの『盛学塾』で、孫さん(孫正義=ソフトバンクグループ会長兼社長)、南部さん(南部靖之・パソナグループ代表兼社長)らと一緒に経営とは何かということを勉強しました。ちょうど、私が新日工販(現フォーバル)の株式公開に向けて、経営の在り方を模索していた時期に、両経営塾に巡り合ったのです。 盛田さんは積極勇敢にアメリカまで行ってイノベーションをどんどん起こすというタイプ。一方の稲盛さんは愚直に組織を作り、人を育てるという考え方で、それぞれ違う。経営にはその2つとも大事なのだということを徹底的に教え込まれ、今の私自身を形成したのだと思っています。」

—— イノベーションを起こすことと、組織を着実に成長させることを両立させていくのは、非常に難しいことだと思いますが、その要諦はどこにありますか

「バランスです。イノベーションだけに重点を置いていたら企業は成り立たない。かといって守りに入ったら企業は伸びません。イノベーションを起こすために、どこまで技術開発に投資をすればいいのかを現状のリソースとのバランスを考えて、常にアクセルとブレーキを踏み変えていくことです。当社でも、私と社長がいつも話し合うのはバランスについてです」

—— ナンバーワンとナンバー2の経営者同士で話し合ってバランスを取っているのですね

「その最たる例がホンダです。創業者、本田宗一郎さんが根っからの技術屋で浜松工場で水冷エンジンなどの技術開発に没頭している時に、名参謀といわれた藤沢武夫さんが総務・人事・財務を含めて本社業務をしっかりと守った。

経営者がイノベーションに熱中するのと同じくらいの意気込みで組織を守る人間を置いたのです。本田さんと藤沢さんは会社の経営をめぐって本気でけんかしました。ナンバーワンとナンバー2が口角泡を飛ばして議論できる会社ならバランス経営ができます。本田さんと藤沢さんは同時に退任して後進に道を譲りました。藤沢さんが「おやじ、もう辞めよう」と、自分も本田宗一郎以外の人に仕える気はないからとね。夫婦以上の信頼関係だったのです。」

どう在るべきか

—— STANDARDは、共同創業者が私を含めて3人います。3人が出会ったのは今から4年ほど前なのですが、その半年前くらいから3人一緒に住むようになりました。シェアハウスで1年半ぐらい共同生活をしたのです。1つの家で、朝から晩まで3人が一緒に仕事をしていて、プライベートも全て筒抜けという期間があったのですが、そのおかげで、お互いの考えていることが阿吽の呼吸で分かるようになりました。 振り返ってみると、3人が目指すところや志は同じであるにもかかわらず、よく議論したのは、それぞれの性格とか、どこに視点を置いて物事をみるとか、生まれ育った環境とか、得意分野などに違いがあり、議論することにより、物事を別の角度から見ることができたり、二次元ではなく三次元でとらえられたりと、より高いクオリティーで解釈できるようになったのかなと思います

「経営をめぐって議論が分かれたら、企業理念に立ち返ることです。富士山に登ることが目標なら、ルートは山梨県側とか静岡県側とかいろいろある。それを参加者のこの臣で自分勝手に主張していたら必ずぶつかる。そのときにそもそもの登山の理念に立ち返れば、自然と最適なルートに落ち着きます。How to doだけではだめで、How to be、どう在るべきかを議論するのです。そのためにも、企業理念をしっかりと持っていないといけません」

—— 大久保会長はフォーバル会長としてどのようなHow to beをお持ちですか?

「日本の中小企業にとって、なくてはならない存在になろうと本気で考えています。中小企業にとって必要と思われる技術・サービスを実現するために、新しい会社や組織を次々と作ってきました。今回のSTANDARDとアイテックの相互協力による中小企業のAI人材の育成、DX化促進に向けても、しっかりとHow to beを全社員に浸透させて取り組みたいと思います。 」

—— STANDARDのHow to beは最先端テクノロジーを日本の会社がきちんと使える形にして普及させていくことです。まず、デジタル技術の人材育成を全産業の大企業に対して普及していくことが日本全体のDX推進を進める上で最重要事項だと考えて実行していきました。しかし、各社のニーズを聞く中で、今後は各業界にいかに深く特化するかが普及を進めるポイントだと考えています。それと人材育成を組み合わせることで、日本全土の中堅・中小企業にもAIを含めたデジタル技術の恩恵を受けてもらえると信じています。フォーバルグループと一緒により多くの顧客や社会に付加価値を与えていきたいと思います

※フジサンケイ ビジネスアイ 2020年4月27日付 無断転載不可

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